| | 梓のことば
「黒部峡谷殺人事件」 初出1987/5/30 光文社カッパノベルス |
後立山(うしろたてやま)連峰から見下ろしても、剣(つるぎ)、立山から望んでも、黒部は深い谷である。この峡谷に、紺碧(こんぺき)の水をたたえる黒部湖に、人間の深い思いを沈めてみようと考えた。
企業の戦士である男は、一つの契機から、一人の男を殺人犯にしてしまった。戦士は愛した女性の影を背負い、犯人は怨恨(えんこん)を抱いて黒部とそこを囲む山と温泉をめぐる運命になった。二人が足をとめて眺める山の風景はおのずと異なるはずである。
本作品を読んでくださる方々が、この風景にどんな色を塗るかを知りたいものである。 |
「八ヶ岳山麓殺人事件」初出1987/9/25 角川書店カドカワノベルズ
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この作品は道原伝吉刑事シリーズの四作目である。
四十半ばで巡査部長の道原は、出世から見放された男である。
背広は似合わないし、明敏にも見えない。
だが、道原伝吉は、心に温かく光る眼を持っている。
この眼で、地を這うようにして事件の根を嗅ぎ回るのだ。
今度の事件は、広くて美しい森林と高原の、八ヶ岳山麓で起きた。 |
「殺人山脈」初出1988/1/25 光文社カッパノベルス
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山を舞台にした作品を書く前に、じっくりと検討せねばならないことがいくつかある。まず考えるのは、場所の設定だ。何山系の何山で、どういう出来事を起こすかで迷うことが多い。作品の重要な舞台になるところは、私が好んで登る山でありたい。だが、好きな山でも、その作品の中のトリックは不向きな場合がある。このように選択すると、適当な山は案外少ないものである。
本作品は、私の好きな山がいくつか眺められる場所をメーン・ステージに選んだ。そのステージは凍って白い岩稜である。そこに孤影悄然とした男を立たせてみたつもりである。 |
「尾瀬殺人湿原」初出1988/5/25光文社カッパノベルス
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沼田からバスで入って、大清水(おおしみず)、三平峠(さんぺいとうげ)、尾瀬沼(おぜぬま)北岸、見晴(みはらし)、尾瀬ヶ原、山ノ鼻(やまのはな)、鳩待峠(はとまちとうげ)へ抜けた。歩きの行程は、無雪期で約八時間三十分。この道中に、私がかねて考えていた舞台がないかをさがした。イメージに合った場所を、地図へいくつか×印を付けた。尾瀬沼にストーリーを映してみたりもした。ミズバショウの咲く尾瀬ヶ原に冬景色を塗ってもみた。
その上に、ある女性の心の震え、哀しさ、感動を重ねた。
標高一四〇〇メートルで地平線の見える湿原が、人生を変えたとしたら…… |
「飛騨泣き殺人事件」初出1988/9/20 立風書房立風ベルス
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人は知らず知らずのうちに、他人を傷つけていることがある。傷つけた方はこれに気がつかないが、受けた側の傷は深く、これが積怨となったらどうだろう。
ふとしたことから隣人が持ちうるかもしれない怨恨と、自殺殺人を描いてみたつもりである |
「密殺連峰」初出1989/11/30 角川書店カドカワノベルス
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最近、こんな記事を目にした。
《「一文無しで、つまはじきにされているあなた。銀行強盗はおろか、人生をやり直す勇気もない。そんなあなたに、ぴったりの解決法があります」
近着のニューズウィーク誌が、こんな刺激的な手紙を紹介している。
西ドイツで出回っているこの手紙はもっと長くて、その解決法を教えてくれる。
「あなたの腎臓を提供することです」》 |
「大雪山殺人事件」初出1989/3/15 廣済堂出版ブルーブックス
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主に中部地方の山を書いてきましたが、北海道を書かないかとすすめられ、私が本拠地としていた北アルプス、中央アルプスを絡めた作品を考えることにしました。
犯罪の舞台はあくまで山で、そこに展開する男と女の人間模様と、犯罪者の裡(うら)にひそむ狂気を、道警本部の刑事に追わせてみました。 |
「殺人氷壁」初出1989/6/25光文社カッパノベルス
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真冬の上高地は、猥雑(わいざつ)なものが入り込まない、省略の効いた白と黒の世界である。
空気は凜(りん)と張っている。
春、夏、秋では現わさない、山の貌(かお)がそこにあるのだ。
本作品は、白い山穂高(ほだか)を見上げながら構想を練った。
いずれの犯行も山に深く結びつき、衆人環視か誰かの目前で行われるトリックを考えたつもりである。
キー・ワードは、氷、火……。 |
「穂高殺人連峰」初出1989/7/30 立風書房立風ノベルス
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北アルプスで最初に登った山が北穂高(きたほたか)岳だった。
三千メートル級の山頂に初めて立ったのだった。その時の感激は今でも忘れない。それが病み付きになって、北穂には何度登ったか、もう数えることができない。大キレットを渉(わた)ったのは、最初の北穂高山行から二、三年たってからと記憶している。話にきいていた以上の悪場だった。本作品ではそこを舞台にした。風が吹き雨が降るたびに、いくつかの岩が抜け落ちる―― |
「梓川 清流の殺意」初出1990/1/30 祥伝社ノン・ノベルス
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全国の代表的な川を舞台にしたシリーズを始めることにした。梓川がその第一弾である。
これを書くに当たって、梓川流域をあらためて歩き、多くの方にお会いした。役場、警察、交通機関、新聞社、旅館などの方々、地元の、重厚、枯淡(こたん)、傑物、翁、野人、放埒(ほうらつ)、美形、無邪気、助っ人、仕掛人、といった人々がこの取材に骨を折ってくださったお陰で、物語が実を結んだ。
これからも各地の川を、旅行作家の茶屋次郎(ちゃやじろう)に描かせるつもりである。どなたの人生も川に似(に)て、奔(はや)く、緩(ゆる)やかに流れていく。茶屋次郎もまた同じである。 |
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